泉谷しげるといえば、ドラマで活躍する役者だと思っている人が大半だと思う。
僕も1970年代のフォークソングに触れる前はそれだけの印象しか持っていなかった。
かつて音楽を始めようとギターを用意したはいいものの、
どんな曲を作ればいいのか四苦八苦していた時に、
CDショップを巡り、「泉谷しげる-GOLDEN☆BEST」という名の付いたCDを手に取って、妙に惹かれたタイトルがあった。
「白雪姫の毒リンゴ」
一体、このタイトルで何を伝えようとしているのか??
素朴な疑問が頭から離れず、そのまま購入して歌詞と一緒に曲を聴いた。
ギター1本に哀愁が漂う言葉で語りかけてくる。
"むなしいむなしいとつぶやいても
また明日もむなしいだけ
空に浮かんでる白い雲も
いまではなにもこたえてくれない”
愛だとか恋だとか夢とか希望とか、J-POPのお決まりな言葉に耳を毒されていた僕に、
とてつもないセンセーショナルが起こった。
こんなにもむなしいと寂しく語る曲を聴いたことがない・・・。
胸のずっと奥にある、正体不明のモヤモヤをすっきりさせる開放感。
歌の上手さではないのだけれど、「すごい」と感じさせてくれる力があった。
"宝石のような涙をさげておまえは泣いていた
きれいな夢を追いかけてるから おまえはいつも傷つくのさ
それでいいのさ いいじゃないのさ まったく見上げたもんだよ
ああ 心ひとすじうちこめる そんな時代はないのです”
懸命に追いかける”夢”のせいで、誰かに何かに傷つくことが多くある。
目を逸らしたくなる現実に向き合い、諭されるように語ってくる歌声にしんみりと聞き入り、
なぜだかホッとしたような気持ち良さがあった。
こんなことを歌ってくれる人がいたんだと。
淡々と歌いながらサビでは以下のフレーズが続く。
”僕たちに今一番必要なものは
あつい恋や夢でなく
まぶしい空から降ってくる
白雪姫の毒リンゴ”
なんて意地悪なんだ!
これを聴いた誰しもが気になる、今一番必要なものは何なのかと知りたくなるところで出てきた白雪姫の毒リンゴ。印象に残るに決まってる。
あつい恋や夢、不思議と憧れてしまうそんなものは必要じゃない。
必死に掴みとろうとした結果、痛い目を見るのがオチなんだよと、
僕を含めてた夢見病者を一喝している。
その通りでぐうの音も出ない。
不思議と手に取ったCDから聴いたひとつの楽曲。
当時、いろんなものから逃げたくなり塞ぎ込んでいたことも影響するだろうけど、後の価値観に大きく影響する歌に出会えた。
夢や恋することが決してわるいものではない。
ただ、掴もうとしているものに”毒リンゴ”が混ざっていることを知っておかなければダメだ。
これからの人生を渡り歩くためにあなたにも、ぜひこの曲を聴いてもらえたら嬉しい。
最後に僕がこの曲で一番好きなフレーズを紹介して終わりにしたい。
”おー人生よ 僕に語りかけて
おまえには僕が必要なんだと
そして僕は答えるだろう
僕にはおまえが邪魔なのさ”